経費支払の事例・・・管理部門の視点と現場担当の視点。

ここで、ちょっと具体的な例を挙げましょう。商品を製造する際に仕入れる原料のお金を、仕入業者に支払うことは、どこの会社も当たり前に行います。支払うという行為は、当然ながら手持ちのお金が必要です。お金は天から降ってくる訳ではなく、蓄えも限りがあります。ですので、どこの会社も一定のルールのもと、支払います。例えば、毎月末日締めの翌月末日払いとか。この処理をするために、支払担当部署である財務部は、「業者への請求書は毎月5日までに提出のこと!」とか、社内での決まりを作って対処します。5日までに手元に届けば、月末までの支払まで余裕を持って、資金繰りできるからね。

ここで、ある原料仕入部署の担当者が、ついウッカリして、5日までに請求書を財務部に提出するのを忘れていたとします。彼は急いで財務部に行って、提出が遅れた理由を説明し、何とか今月末日までに支払ってほしいと頼みます。でも財務の支払担当者は、「ウチの会社のルールは5日までに提出だから、支払えません!」と突っぱねるとします。財務の担当者的には、仕事の手順ややり方としては間違ってはいないのです。彼は恣意性を排除し、会社のルールをキッチリ守っているのだから。

でも、原料仕入部署の担当者的には、支払ってもらわないと困ります。支払遅延で、もし取引が中止になってしまうと売るべき商品が造れない、だから営業にも迷惑がかかる、ひいては売上が上がらず、利益が下がるという流れになります。財務と仕入部署の平行線議論です。

合法的ルール違反により落としどころを探る。

ここで、財務部の責任者が登場します。課長さんか部長さんね。責任者は、会社を大局的に見て、どうすべきかをジャッジします。恐らく支払いに応じるでしょうね。「次回からは気をつけてよ!」なんて言いながら。

この決定は、財務の支払担当者的には、プライドが傷つけられるかもしれません。自分はルールを守って拒絶したのに、上司は、それを許してしまった訳だから。でも彼は、自分の業務をルール通りにやることで精一杯で、他の部署の業務がシッカリと見えていません。だから、財務の責任者が下した大局的ジャッジが判らない訳です。ひょっとしたら、責任者のジャッジを、恣意性判断と思ってしまうかもしれませんよね。

財務責任者は、確かに会社の規程・ルールは破っていますよね?でも、法律違反をしている訳ではない。日本の法律に、「全ての会社は、仕入先の支払に際し、毎月5日までに手続を終了しないと業者に支払ってはいけない」なんてどこにも書いていません。むしろ、このルール違反をすることによって、取引が円滑に進んで、会社の利益に貢献します。この財務責任者が、担当者と一緒になって「ダメ!」なんて言っていると、逆に問題です。もちろん全部が全部ルール違反で、なんて言っている訳ではないですよ。時には、突っぱねる時もあります。

管理部門で仕事のできる人とは?

これが前回書いた、「①と②の境界線が自由に伸縮」するという意味であり、合法的ルール違反が出来る人です。これができない人は、管理部門で付加価値をあげる適性はないと言えるでしょう。

実際には、権限というものがないと、一人の担当者ではできないでしょうし、内容も、もっともっと複雑でジャッジが難しい事項ばかりです。それは総務も人事も経理も同じ。どの部署もルールを守りつつ、会社の利益のためには平気で合法的ルール違反を犯すこともあります。それが出来るようになるためには、業務に精通するため努力し、同時に法律も、机上の理屈ではなく、実体論で覚えることが重要。②と③の境界線がどこにあるのかを理解した上で、そこに①と②の境界線をギリギリまで近づけられる人が、管理部門で優秀な人ということになります。これは恣意性がある仕事ではなく、会社のことを考えた上でのジャッジ。つまり合法的ルール違反です。

新入社員が、最初からこれができる訳はありません。でも、会社の利益を上げるということにまい進するのは、みな同じ。まずは配属先の仕事、業界の商慣習、クセ、他部門の業務等を一日でも早くしっかり覚えて、合法的ルール違反が出来るようなスキルが身につけるような意識を持つことが大切です。面接では、これが出来そうかどうか?また、頭でっかちではなく、柔軟な対応が出来そうかどうか?を判断することになります。持っている資格や知識は二の次ですね。

つづく。

新規会員登録はこちら
ページトップ